ベートーヴェンのピアノ・ソナタ32番op.111の第2楽章、アリエッタの最後のトリルを、プロのピアニストたちはどうやって弾いているのか?実際に調べてみました。

ソナタの譜面ピアノ

ベートーヴェンの作曲した32曲のピアノソナタのうちの最後のソナタが32番ハ短調(C minorop.111です。2楽章のみのソナタという当時としては型破りなものでしたが、まさに32曲のソナタを締めくくるのにふさわしい至高の作品です。

その第2楽章の最後に長大なトリルと共に主旋律が奏でられる部分があるのですが、その最初の部分は下のようになっています。

ソナタの譜面

これを実際に弾く場合、下に示したように赤枠で囲った部分でトリルを引きつつ、赤丸で囲った旋律を奏でなければならないのですが、この赤丸の部分の音は、通常の手の大きさであれば4−5(あるいは3-5など)でトリルを弾きつつ、1の指で弾いて音を出すしかありません

ソナタの譜面、解説付き

しかし4−5などでトリルを弾きながらオクターブ下の音を1の指で弾くのはいかにもしんどそうです。

私はピアノ演奏に関しては全くのアマチュアなので、楽譜を見たときは「どうやって弾いてるんだろう」と思ったものです。

たまに演奏動画を観る機会もあったのですが、ここわいわゆる「最後のいいところ」なので、ここの部分になると引きの映像になって手元がよく見えなかったりピアニストの顔だけ映されたり、みたいなことが多いんですよね(笑)

でも最近は、YouTubeで色んなピアニストの演奏動画を観ることができるようになりました。その中には、この箇所を弾いている時の手元を映してくれる動画もけっこうあったのですよね。

どのように弾いているか

まぁプロのピアニストにとってはこれくらい指が動いて当然なんだろうと思っていたのですが、YouTubeで色んなピアニストの動画を観ると、やはり彼ら・彼女らも弾きにくいと感じるらしく、工夫して弾いているケースもありました。

どういう工夫かというと、まぁやっぱり旋律の部分を左手でとる(左手の1の指で弾く)というものですね。こんな風に 

 

楽譜の版によっては校訂者によって “(l.)” というように「左手で弾くという方法もあるよ」と教えてくれているものもあります。

楽譜は特に指定が無いのであれば必ずしも上段を右手で・下段を左手で弾かなければならないと決まったいるわけではないようですが(楽譜で示された音を鳴らせばそれで良いので)、作曲者が用いた記譜にはやはり右手・左手の意図があると考えるのが自然かなと個人的には思います。

どのピアニストがどのような指使いで弾いているか?

というわけで、誰が記譜通りに弾いていて誰がそうでないかを知りたくありませんか?

YouTubeで観ることが出来る動画で調べてみたので、結果を報告したいと思います。

名だたる巨匠から有名でない人まで含みます。

なお、YouTubeに上がっている全てのこの曲の動画を網羅しているというわけではありませんが、なかなか興味深い結果になったかと思います。

なお便宜上、件の箇所の旋律部分を右手1の指で「きちんと」弾いている場合を「記譜通り」、左手を使って弾いている場合は「左手」と表現することにします。

ピアニスト19人をレビュー!

ブレンデル

左手

ダニール・トリフォノフ

記譜通り

ミケランジェリ

左手

これは意外でした。ミケランジェリは手が凄く大きいですし何事にも厳しそうなので、記譜通りに弾いていそうだと感じていました。

 

Katie Mahan

左手

マリア・ジョアン・ピリス

右手

これも逆に意外でした。
女性は男性より手が小さめなので左手を使っているかと思っていました。ただ、右手1の指で旋律を弾く時だけ手を大きく低音部に傾けているため、その時のトリルが途切れがちに聴こえてしまう感じではありました。


RUDOLF BUCHBINDER

記譜通り

トリルはずっと3−4で弾いています。手が大きいのでしょうね。

アラウ

記譜通り

アラウもきちんと、右手だけで弾いています。
トリルは3-5でしょうか。

デニス・マツーエフ

記譜通り

体育会系ピアニズムという印象がある彼ですが、手も大きそうですし、これは予想通りでした。

音ズレがけっこうひどい動画です

ゼルキン

記譜通り

ゼルキンというと何となく繊細というか線が細い感じがしていましたが、きちんと記譜通りでした。

Llŷr Williams

左手

Jeremy Denk

記譜通り

ただし、基本的にトリルは3-4で弾きつつ、旋律を1の指で弾く時だけ4−5でトリルしているように見えます。

そのせいか、ピリスと同じくその時だけトリルが途切れて聴こえてしまっています。

エリック・ハイドシェック

左手

Ariel Lanyi

左手

Paul Barton

記譜通り

この方もトリルはずっと3-4です。
やはり手が大きいのでしょう。

Alexey Chernov

左手

他の人とは違い、トリルは1−3で弾いているように見えます。
また、旋律の一部は右手1指でも弾いているようです。

TREVELYAN Julian

左手

旋律部分の最初の1音(レ)も左手で弾いてるように見えます。

ポリーニ

記譜通り

トリルをどの指で弾いているのかはよく見えません。ポリーニも手が大きいですよね。

キーシン

左手

個人的に最も意外だったのがキーシンです。手も大きいですし、厳密に記譜通りに弾くというイメージでした。
トリルは(12交互)-3で弾いてるようで、独特ですね。

アシュケナージ

記譜通り

彼は白人男性にしては手が小さめであるにも関わらず、きちんと4-5でトリルを弾いていて、彼の誠実・真面目そうなイメージを裏切りませんでした(笑)。

4−5のトリルも粒が揃った細かいトリルでしたが、途中から3−5のトリルになるとさらに細かくきれいなトリルとなり、アシュケナージと言えども4−5のトリルは他の指より弾きにくいんだなぁと変に感じ入ってしまいました。

弾き方は人それぞれ

ということで、ピアニストたちがどのように最後のトリル部分を弾いているかをYouTubeで調べていました。

言うまでもなく、どれが正しくてどれが良いということはありません。
プロのピアニストの工夫を見ることは純粋に楽しいものです。

良い時代になったものだなぁ…と思いますね!

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